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校長より
2013.10.19
丘の学び舎 その15
Be independent. Be intelligent. Be cooperative.

                                                             校長 棚瀬佐知子

 この夏8月17日の夜、「緒方貞子の生涯 -戦争が終わらないこの世界で-」というNHKの番組が放映されました。聖心女子大学での撮影も織り込まれたドラマと貴重な映像に基づくドキュメンタリーの部分とで出来上がった約90分の番組は、緒方貞子さんの魅力であふれていました。1991年から2000年にかけて、世界初の女性国連難民高等弁務官として重責を担われた緒方貞子さんは、小・中・高・大とすべて聖心で教育を受けられた方です。

 就任早々180万人に及ぶクルド難民問題に直面し、それまでのUNHCRのルールを覆す救援活動を展開なさった緒方さん。1992年のユーゴスラビア紛争では、防弾チョッキに身を包んで銃弾の飛び交う紛争地に自ら足を運ぶなど、「一人でも多くの命を救うこと」を何よりの優先課題に、大胆な決断と勇気あふれる実行力で卓越した指導力を発揮なさいました。「台所から国連へ」と自ら仰っていたように、妻であり、母であり、主婦でもあった緒方さんが国連という世界の舞台に導かれ、「アジアの女に何ができるか」という巷の噂も覆して、国連難民高等弁務官として大活躍なさる姿に、深い感動を覚えました。

 その緒方さんに強い影響を与えたのが、聖心女子大学の初代学長マザー・ブリットです。番組の中でも取り上げられていた “Be independent. Be intelligent. Be cooperative.”というマザー・ブリットのことばが、緒方さんご自身を形作ったといっても過言ではありません。そのことばには、まさに聖心の教育の真髄が込められています。戦後間もない1948年、聖心女子大学が創立される折、「戦後の復興ままならない時に、なぜ女子のための大学などを建てるのか。そんなお金があるのなら、飢えている人々に分け与えてはどうか。」と付近の住民から非難される中、「ここで学ぶ女性たちが、やがて日本を、そして世界を変えます。」と胸を張って説明されたマザー・ブリットの思いが、聖心女子大学第一回生、緒方貞子さんという一人の女性として実を結んだのです。人種・民族の違いを越えて人間を深く尊重し、一人ひとりに愛情を注いで耳を傾けるお姿と、独創的な知性を発揮し、次々と迫りくる世界の現実と真正面から向き合われるお姿に、聖心の教育が目指す「より良い社会を築くことに貢献する賢明な女性」そのものを見る思いがしました。

 時を同じくして国連で活躍したもう一人の聖心の卒業生のことも、私の脳裏に浮かんできました。アイルランドの第7代大統領で、1997年から2002年にかけて国連人権高等弁務官として活躍なさったMary Robinsonです。アイルランドの首都ダブリンの聖心女子学院を訪れると、聖心の生徒であった頃のMary Robinsonの写真が何枚も飾られています。聖心の教育を受けて「魂と知性と実行力」を豊かに育んだ女性が、世界の人々の命の尊厳を守るために貢献したということは、アイルランドの聖心にとっても大きな誇りである違いありません。

 お二人とも才能や家庭環境など、恵まれた背景を持ち合わせておられたのはもちろんのことでしょう。しかし、世界や人間に対してどのような考えを育み、いただいた能力を何に向かって伸ばしていったのかは、教育に負うところが大きいともいえるのではないでしょうか。

 「小さな巨人」と称えられた緒方貞子さんの生き方を貫いているのは、「隣の人は皆違っているけれど、異人ではなく、偉人である」という、人を心から尊重する姿勢です。小林聖心で学ぶ皆さんもその精神を培い、それぞれが招かれている使命に向かって思いっきり伸びていってほしいと、心から願っています。

 

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